30代技術士の成長記録

令和元年度技術士二次試験に合格した30代技術士(機械部門)の成長記録です

コンカレントエンジニアリングの実践方法

 今年の技術士二次試験の機械部門・機械設計 選択科目Ⅱ-2でコンカレントエンジニアリング(以下CE)に関する問題が出題されました。CE自体は重要キーワードのうちの一つです。しかし、普段から実践できている方はどれほどみえるでしょうか?私の認識では言葉が独り歩きしているような気がしてなりません。あくまで理想論に過ぎないと思う人も多いのではないでしょうか。私も以前はその様に感じておりました。

 ではどうしたらCEを実践できるでしょうか。今回の記事では、CEを実践する上でのポイントと実際にどのように進めるのかを簡単に説明します。是非最後までお付き合い下さい。

 

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コンカレントエンジニアリングとは

 業務プロセス(例えば製造業でいうと企画、設計、製造など)を同時並行して行い、開発リードタイムを短縮する手法です。開発リードタイム短縮は、企業の競争力を向上させるためには避けては通れない課題です。CEと対を成す言葉として、ウォーターフォール型開発という言葉があります。これは開発工程順に流れるように業務を進める方法で、原則前工程と後工程が関わることがありません。

 CEは単に開発リードタイム短縮だけが目的ではありません。同時並行で業務を進めることで、プロセス毎に出す成果よりも高い成果が出せるようになります。何故なら様々な部門の意見が集まるようになるためです。CEを実践しない時よりも多くのアイデアが生まれます。例えば、構想設計の段階で、設計だけでなく営業・調達・組立・サービス等の各部門の意見が交わることで最適解が導き出せるのです。

 

CEを導入するためには

 CEの導入は以下のような理由で敬遠されています。

・部門間を取りまとめる人材がいない

・部門毎に異なる課題を抱えているため協力出来ない

・全体最適化の概念がない

・コストが割けない

 このようなネガティブなイメージを払拭する為には、まずは成功体験を得るしかありません。しかし、普段の業務で取り組んだ結果失敗することもあるでしょう。いきなり実践して上手くいくはずもありません。結果的には元の業務フローに戻ってしまいます。

 何となくCEを実践するのではなく、失敗しないようにCEを正しく理解したいところです。それでは成功させるためにいくつかポイントを挙げていきます。

 

CE実践においてまずやるべきこと

 まずやるべきことは、計画の立案です。実際に実践する場合はその場しのぎの対応ではいけません。事前にどこでどの業務プロセスを並行して進めるのかを考えます。これは開発業務の内容や関連する部門に応じて決定しますが、例えば量産品の場合は設計(製品設計)と生産技術(生産ライン設計)が並行して業務を進めます。量産のしやすさ、自動化によるコストダウンを意識した設計を初期段階から意識させるためです。

 

CE実現に必要なこと

 まず一つ目に先に立てた計画をブレずに実行することです。そして失敗しても何が問題だったか振り返りを行う、PDCAを回すことです。その為にも計画表の作成は必須です。いつまでに誰が何を決めるのかなどが明確にされていることが望ましいです。ここでは全体計画表と部署ごとの個別計画表を併記します。DRを全体計画表の方に記載し、出図や平行して行う業務は各担当部門毎の個別計画表に記載します。ポイントは全体計画を軸に個別計画が成り立っていること。そして個別計画は横(部門間)の繋がりに整合性があることです。

 二つ目にCEを実践するためのリーダーを選任することです。全体リーダーは設計責任者であることが多いです。CEは各部門が並行して業務を行うため、スケジュールだけでなくや利害関係の調整役としても奔走しなければなりません。余談ですが、技術士のコンピテンシーのリーダーシップとマネジメントにはこれが出来なければならないとあります。私が思うに技術士になるならCEのリーダーかそれに準ずる立場を経験したいところです。

 リーダーの要件には部門内外を束ねるマネジメント力だけでなく、技術力が必要です。そして何よりも大切なのは現場力だと私は考えます。ここで言う現場力というのはコミュニケーション力や三現主義に基づいた行動が出来る力を指します。自分の手が届く資料や理論に頼るだけでなく、他人の知見に耳を傾け、状況に応じて物事を判断する。時には計画にない対応に迫られることもありますが、それに対し正しく判断する力が求められます。 

 これからのCE

 CEは古くから設計手法として広く知られています。しかし基本的な概念だけがそのまま伝わり、現代に上手く適応できていません。例えば、CEの肝となるツールの使い方は時代によって大きく変化します。3DCADは大分普及していますが、一昔前までは大企業の開発部での運用に限られていました。運用には性能の良い高価なパソコンが必要だった為です。今では3DCADからCAEまで技術者一人ひとりが行えるほどパソコンの性能が上がっています。私も自分のデスクトップPCで応力解析を行います。このように今の時代に合ったツールを用いたCEの在り方を模索することが、各企業に求められています。

 あくまで参考としていただきたいのですが、以下のようなツールや手法を用いてCEを行っていくことが求められると考えます。

・PLMによって開発製品のライフサイクル全体に関わる情報を一元管理する。

・PDMによって各部署との3DCADデータと内部情報(材料、表面処理、質量など)を共有する。CAM/CAEへの展開が随時行えるため、初期段階での問題点の抽出を他部署からでも行える。CAMの場合は調達部、CAEは解析担当部署など。

・VRをレビューに導入。組立やサービスなど現場感覚に寄り添った意見交換を促す。

・セキュリティ対策としてクラウドを用いる。

・Zoomなどのオンライン会議サービスを利用する。時間場所デバイスなどの制約による情報共有の遅延を防ぐ。

 

 他にもまだまだありそうですが、機会があれば最新情報としてアップデートしていきます。ここで気になる点が一つ。それはどれもIT、ICT、IoTといった情報通信技術が必要不可欠な点です。情報伝達はスピードが命です。しかし、CADデータ特に3DCADデータはデータ容量が大きく送受信時に大きな遅延が発生します。海外とのデータのやり取りではそれが命取りになります。今年から日本でも5Gが一般的に知られるようになってきました。どこまでこの通信技術がつかえるか?がポイントになってくるでしょう。