技術者育成はいつの時代も変わらず私達が抱える重要な課題のうちの一つです。新人の頃、誰もが新人研修を受けたことがあると思いますが、これも技術者育成のための一つの方策です。しかし、技術者育成は学校のようにただ計画的に行えばいいというものではありません。課題は時代に合わせて少しずつ変化してきており、柔軟に対応が必要です。そこで、今回は技術者育成について記事にしたいと思います。
技術者育成は経営者の課題ではない
技術者育成というと、大掛かりな準備やコストが必要と考えていませんか?会場を借りた大掛かりな研修だけが技術者育成の手法ではありません。私の会社では企画部が研修計画を立てたり、講師を務めたりと技術者育成のために尽力しております。しかしそのような研修が行われる頻度は高くありません。新人研修は3カ月ほど設けられておりますが、2年目以降は1年に1度集合研修があるくらいです。
この状況に不満を漏らす者も少なくありません。技術力の向上には質の良い教育が多く必要だと考えているのです。特に最近の新入社員にありがちです。残念ながらこの不満はいつまでたっても解消されないでしょう。何故なら、会社の集合研修で個人が欲している教育を行うことは困難だからです。集合研修では数十人という規模で行われることもあります。そこではなるべく全員に共通する課題を提示し、解決するための研修が行われるのです。設計者でも何を設計するかで必要な教育が異なり、このギャップが不満につながります。
以上のことから、技術者育成は個人やその周りの人間(チームなどの小グループ)といった単位で課題を見つけ、解決していくことが望ましいと考えます。では具体的にどのような手法で技術者育成を進めていけばよいでしょうか。
技術者育成の手法
技術者育成には大きく分けて三つの手法が存在します。
・On the job training(以下OJT)
・Off the job training(以下OFF JT)
・自己啓発
厳密には自己啓発は手法と呼べませんが、一応技術者育成として括っておきます。この三つを混同して考えて、技術士二次試験で誤った使い方をしないようにしましょう。
OJTとは
業務を遂行しながら業務に必要な知識や技能を身につけさせる手法です。明確にOJTとは言いませんが、殆どの方はこの手法によって育ってきた筈です。私もまぁ例外に漏れず‥と言いたいところですが、殆どOJTは無かったですね。自分で仕事を取ってきて殆ど自分で処理しました。見積書や納品書の書き方は教えてもらいましたが、これは技術者育成とは関係ありませんのでノーカウントです。
OJTのポイントは、仕事の与え方です。例えば、ある部品の設計を通して設計手順やルール、加工方法、製図方法など様々なことを教える。つまり「課題を設定してそれを解決させること」です。もちろん課題を解決できているか、成果の確認も育成する側の大事な仕事です。仕事を与えるだけではOJTといえません。
OFF JTとは
業務から離れて、業務に必要な知識を身につけさせる手法です。外部研修などが代表的です。OJTとの違いは業務との関連性です。OFF JTは技術者の現状の課題を解決するための手段ですから、例えば安全設計に関する知識が足りないとなれば、外部セミナーに参加して知識を補います。特に業務では知識を得ることができないもの、つまり企業として教えることができないものはOFF JTを実践します。OFF JTは企業から報酬が得られます。外部研修の場合は、出張扱いになる場合もあるでしょう。
自己啓発とは
業務外で業務遂行に際し、足りない知識や技能を身につける行為です。通勤や休み時間に参考書を読む、資格受験など様々な形があります。自己啓発は報酬が出ない以上、明確な目的意識がない方には難しいですね。
よく自己啓発をする人に「何故そんな事が出来るのか?」と問いかける人がいますが、当たり前の話ですね。普通仕事の為なら仕事中に勉強すればいいと考えます。しかし、仕事中は定められたタスクが存在し、それを達成するために勉強をするという行為自体があまり認められません。そもそも勉強しなければならないほど無知であれば、仕事自体が回ってこないでしょう。成果が出ませんからね。社会人は経験年数が増すほど、自分にできる範囲か一歩踏み出したくらいのところでしか仕事しません。というか任せてもらえませんからね。
より大きな仕事を任せてもらいたい、出世したいなどの向上心の高い人は自己啓発に取り組んでいます。
正しい技術者育成の在り方
最初に述べたように、集合研修やセミナーといったOFF JTは一定の効果はあるかもしれません。しかし技術者人生の中でそれはあまり重要ではありません。育成にかける時間としては短すぎます。1日足らずの集合研修やセミナーの内容をいつまで覚えていることが出来るでしょうか?帰って復習する方はどれほどいますか?知識として身につくのは一時的なのです。
自身に教育が必要だと感じたとき、自分自身で計画することが望ましいのです。押し付けられた教育ほど身にならないものはありません。今自分には何が出来て何が出来ないのか?自問自答をし、自身の育成計画を練る事。技術者育成は自分自身で行うことが大前提なのです。
しかし、そればかりでは技術者育成は捗りません。自発的に勉強しようとする人間は稀です。OJT・OFF JT・自己啓発どれにしたって、企業側が技術者自身に技術者教育の重要さを理解させる取り組みを行う。そして実施した者にはきちんと対価(給与や希望異動を叶えるなど)を払うことを徹底する必要があると考えます。とりあえず勉強しろという上司は教育を放棄しています。そんな人に限って、大して勉強してきていません。その苦労と効率の悪さを知りませんからね。企業として技術者育成に適した環境づくりをし、個人が自発的に勉強できるよう協力することが重要です。
私の技術者育成論は、私自身の体験に基づきます。私自身の課題を抽出し、勉強する→資格を取る→自己啓発が周知される→周囲のモチベーションが向上する→自己啓発は当たり前という雰囲気作りが完成
といった形で、手段というよりは環境を変えることを目標にしてきました。このように企業を動かす経営者で無くても出来ることはあります。企業に勤める一人ひとりが技術者育成に取り組みたいですね。
まとめ
以上長々と語ってきましたが、要約すると以下になります。
・技術者育成は個人や小グループ単位で行うことが望ましい。
・技術者育成の方策としてはOJT、OFF JT、自己啓発がある。
・個人でも成長に何が必要か考え、計画することが大事。
・企業側も個人が自発的に勉強しやすい環境づくりをする。
・自分自身が率先して自己啓発を行い、周囲のモチベーションを高めて成長を促す。
・技術者育成は企業に勤める全員で取り組むべき。