今回は機械設計者にとって大変重要な材料知識について記事にします。長くなりますので、数回に分けたいと思います。ぜひ最後まで目を通して頂き、ご自身の業務に役立てていただけたら幸いです。
材料知識の重要性
機械を設計するにあたって、材料に対する理解を深めることは大変重要です。材料は汎用性の高いものからある用途に特化したものまで含めると、膨大な種類が存在します。設計者は、それらの中から要求事項に適した材料を選定しなければなりません。扱いを間違えれば要求事項に応えられないばかりか、最悪の場合大きな事故にも繋がるため、材料に関する様々な特性の理解が求められます。そして現実世界でモノを作るためには、材料選定は避けて通れません。
つまり材料知識は機械設計に必要不可欠であるため、身につけた分だけ設計効率が上がります。しかし、どこから手を付ければいいかわからないという方も多いのではないでしょうか。そういう方向けに、材料知識についてまず抑えるべきポイントを記していきます。これを足掛かりにどんどん知識を深めていただけると幸いです。
必要な材料知識が何かを知る
材料知識は主に以下のように分類できます。
機械的性質・・・剛性、強度、靭性、脆性、硬度など
化学的性質・・・耐薬品性、耐食性など
物理的性質・・・密度、導電率、選膨張係数、熱伝導率、磁性など
機械の設計において、材料を選定する際、要求事項を材料のどの性質に当てはめて考えるかは非常に重要です。例えば、部品の変形量を何㎜以内に抑えたいとなれば、機械的性質の剛性を見なければなりません。 軽い材料にしたかったら物理的性質の密度を見る、さびにくい材料にしたいということでしたら耐食性を見ます。静電気の発生を防ぐなら導電性を見ます。
このように、要求事項から設計を進めるためには、まず材料知識が必要であることが分かります。次から各性質についてポイントを整理していきましょう。
機械的性質
機械的性質には強度と剛性という比較的似たような性質があります。違いについて正しく理解されているでしょうか。
剛性・・・力を受けた際の変形のしにくさ。(たわみの小ささ)
強度・・・耐えられる力の度合い。壊れにくさ。
剛性
剛性は、縦弾性係数Eからその程度を読み取ることが出来ます。同じ断面形状(断面係数)でも縦弾性係数が低いと変形量が大きくなるのです。
イメージを掴んでいただくために、いくつか機械材料の縦弾性係数を見ていただきたいと思います。表の単位GPaは10^3 N/mm^2に換算できます。値が大きいほど変形量が小さいことを意味します。
表1.機械材料の縦弾性係数
剛性の程度つまり変形量を計算する際は、以下の公式より求めることが出来ます。
強度
強度は、引張強度などからその程度を読み取ることが出来ます。応力の単位と同じでMPa(N/mm^2)です。以下の表に機械材料の引張強度を纏めておきます。
表2.機械材料の引張強度
引張強度以上の応力がその部材に発生すると破断します。しかし、材料力学的には降伏点という塑性変形をし始める応力に達した時、破損したと扱います。塑性変形とは変形を生じた際にもとの形状に戻らない状態のことです。安全率を求める際の基準強さを降伏点応力に設定する場合が多いです。
実際に設計した部品に対し、剛性・引張強度などが十分か確認する場合、実機試験のほかにCAE(応力解析)を用います。裏を返せば、応力解析は機械的性質を理解することが重要です。CAEに関しては、近日中に別途記事で詳しく書きますので、そちらも併せて読んでいただけると幸いです。
硬さ
硬さとは、一点に力を加えた際の抵抗(反力)の度合いです。通常硬さは、硬い・やわらかいなどで表現しますが、実際は規格で定められた測定方法により比較して程度を表します。硬さは主に熱処理の指示などにおいて表現する機会があります。また、ウレタンなどの弾力性のある材料においても硬さを数値で表現します。ウレタンの場合はショアAを用います。
ロックウェル硬さ試験(HRC)・・・測定方法:円錐を押し込んで出来たくぼみの深さを測る。
ブリネル硬さ試験(HBW)・・・測定方法:鋼球を押し込んで出来たくぼみの直径を測る。
ビッカース硬さ試験(HV)・・・四角錐を押し込んで出来たくぼみの対角線を測る。
ショア硬さ試験(HS)・・・測定方法:ダイヤモンドハンマの跳ね上がり高さを測る。先述したショアAとは別物。
剛性と硬さの関係は比例します。しかし、上記のように定義が異なるため混同しないよう注意が必要です。
その②は以下のリンクから