以前『機械設計力向上の為に』と題して、4力を理解し土台を作る事が重要とお伝えしました。しかし、4力といっても範囲が広く、具体的にどこから覚えるべきか悩むと思われます。そこで今回から2回に分けて、4力についてまず抑えるべきポイントを具体的に説明していきます。
※私が産業機械の設計をしている関係で、記述が参考にならない場合もあるかと思います。なるべく根っこの部分で話を進めるようにしますが、ご容赦願います。
機械設計の専門知識においてまず重要なポイントは、壊れない機械を作ることです。どれだけ理想的な動きを実現していても、負荷に耐えられない機械は仕様を満たしておりません。また壊れる機械はそれだけ危険であるということです。部品の落下により人が下敷きになる可能性もあります。さらに、機械は人手で出来ない技術や、手間がかかる作業を人の代わりに行うための物で、エネルギーの大きさは人間が普段接するそれとは全く異なります。機械に詳しくない方ほど、認識が甘く危険な目に遭います。つまりリスク回避を意識した設計を行うために必要な知識をまずは身に着けます。では、具体的にどのような知識が必要か以下に挙げていきます。
1.材料力学
材料力学の中でも、まずは応力の概念をしっかり理解しましょう。応力とは単位面積当たりの負荷の大きさでN/mm²で表せます。代表的なもので引張応力、せん断応力、曲げ応力などがあります。
応力を求めるために、断面係数、断面二次モーメント、単純梁の始点反力計算、引っ張りせん断曲げ応力の求め方は押さえておくべきです。
部材の強さ(壊れにくさ)は応力で表現するため、部材の強度設計は応力計算が必須です。最終的には基準応力(引張強度 or 降伏点)=許容応力X安全率の条件において、許容応力>計算応力となるように強度設計をします。
※安全率の考え方は別途記事にします。
基準応力は条件に応じて降伏点と疲労限度を使い分けましょう。条件次第で結果が全く異なるため注意が必要です。
また、頻繁に利用する部材の引張強さと降伏点くらいは頭に入れておきましょう。私の場合SS400、SUS304、アルミニウム合金(A5052など)といったところです。
さらに強度と剛性の違いは理解するべきです。強度が壊れにくさの度合いで、剛性は変形しにくさの度合いになります。強度(部材強さ)と剛性は比例するものでもありません。アルミニウム合金の中でもA7075超々ジュラルミンは剛性は低いですが、強度はSS400を上回ります。しかしA7075を含めアルミニウム合金は縦弾性係数に大きな差はありません。つまり、強度を上げるために剛性を上げるという考え方は間違っています。逆もまた然りです。各々計算方法が異なるため、しっかり使い分けましょう。最終的には両方で評価基準を設ける必要があります。ちなみに剛性で一番身近なものは曲げ剛性です。たわみの計算式でいう分母の部分になります(縦弾性係数X断面二次モーメントの部分)。つまり曲げ剛性を高めたい場合は、弾性係数の高い部材か断面二次モーメントの大きな形状へ置き換える必要があります。
・応力の概念と計算方法を覚える
・強度計算のためには断面係数や断面二次モーメントなどの断面形状の計算、基準応力、安全率を知る必要がある。
・許容応力は基準応力を安全率で除した値。
・強度設計とは、部材に発生する応力が許容応力以下になるように設計すること。
・基準応力は条件によって降伏点と疲労限度を使い分ける。
・必要に応じて数値は暗記する。
・強度と剛性の意味を理解して使い分ける。
・剛性を高める為には、弾性係数の高い材料か断面二次モーメントの大きな形状へ変更する。
2.機械力学
機械力学では機械が動く時に発生する力などを求めます。重要なことは、材料力学と違い、部材を剛体(変形しないもの)として扱うことです。
機械力学では、一つのことを深く知ろうとせず、まずは広く浅く知識を身につけることです。このような機構ではこの計算方法が役立つな、といった形で引き出しを開ける準備しておくと良いです。私の感覚としては、モーメント、摩擦力、重心計算は、簡単な機構の計算によく用います。また産業ロボットにおいては、駆動系の計算に慣性モーメントを用います。例えば、モーターの出力計算には、最大トルク(モーメント)と回転速度が必要です。この最大トルクの計算に、角加速度と慣性モーメントが必要なのです。正確にはこれを加速トルクといい、釣り合い式から求められる負荷トルクと合計し、最大トルクを算出します。仮にトルクの計算を間違えた場合、部材のせん断破壊をおこしたり、最悪の場合重大な事故に繋がるため慎重に進めなければなりません。
機械力学では振動に関する知識も含まれますが、専門の方でない限り、初期段階で深く学ぶ必要はありません。が、振動は剛性が影響すると言うことだけは覚えておく必要があります。振動数はバネ定数の平方根に比例します。そしてバネ定数は以下のたわみδの計算式を代入して分かる通り、曲げ剛性に比例することがわかります。
既に共振により大きく振動している部品がある場合、剛性を見直すことで対策が分かることもあるということです。ちなみに振動によって繰り返しの力が発生するため、強度的にも不利な条件となります。振動を抑える設計というのは、壊れない機械を作る上でも重要な役割を担います。
・機械力学では部材を剛体として扱うことを念頭に置く。
・最初は広く浅く学ぶよう心掛ける。
・モーメント、摩擦力、重心計算はよく使う。
・駆動系の設計は慣性モーメントがポイント。
・振動系はまず剛性に着目し問題解決の手掛かりにする。
流体力学と熱力学に関しては次の記事に記載します。