今回は、これから設計に携わる人、中々上手くいかず苦労している方向けに、設計について記事にします。なるべく簡素な内容にするつもりです。所々に出てくるツールや手法については簡単に解説を加えますが、詳細はご自身で調べて頂くことをお勧めします。この記事をきっかけに設計への理解を深め、技術力向上の一助になれば幸いです。
1.設計とは
目的を実現するために、具体的な手段や方法を考え、全体最適化を図りながら課題を解決する作業のことです。機械を生み出す上で無くてはならない工程です。技術士機械部門においてにも機械設計という選択科目が存在します。
設計の流れをここでは設計プロセスといいます。設計プロセスは製品開発工程の一部であることをまずは理解しておく必要があります。
2.製品開発の流れ
製品開発は主に
Step1.企画
Step2.構想設計
Step3.詳細設計
Step4.試作評価
Step5.量産化
の段階に分かれており、設計プロセスは主にStep2.構想設計、Step3.詳細設計に該当します。(Step.1企画が構想設計に含まれるという解釈もあります)
しかし、このStepは各々が独立した工程ではなく、お互い大きな影響を及ぼしています。例えばフロントローディングにおいては、手戻りを少なくするために製品製造工程のStep1.~2もしくは3の段階にコストやリソースをつぎ込むことで、全体コストの最適化を図るという考え方になります。フロントローディングに失敗すると、試作のやり直しや量産金型の変更、最悪客先での不具合発生、リコールに繋がるケースも考えられます。
またより良い設計を行うには、Step4.試作において製造フィードバックが重要です。量産前に確実に問題を解消するだけでなく、設計者の技量を向上させられます。結果、次回の試作前にフィードバックを受けないような設計を行えるのです。現実は0にすることは不可能なので、限りなく少なくするというイメージです。
以上より、設計は製品製造工程の一部であることを認識し、プロセスの最適化を図る必要があることがわかります。委託設計会社など設計に特化した会社においては、特に若手を中心に認識が甘い状況です。良い設計をするためには、まずここを抑えるよう教育すべきです。
3.設計プロセスを理解する
ここではStep2.構想設計とStep3.詳細設計について詳しく述べます。
Step2.構想設計
構想設計とは、設計のベースとなる部分つまり大枠の仕様を決める作業です。構想設計の出来で設計の全体コストやリードタイムが決まるといっても過言ではありません。設計のやり直しは後工程に進めば進むほど、影響が大きいです。前項でもお伝えしましたが、『なるべく構想設計(初期工程、上流工程)にリソースをつぎ込んで設計を品質の作りこみを綿密にする』という考え方をフロントローディングといいます。
Step2-1.要求仕様の明確化
仮にニーズ型開発とします。顧客の要求仕様が何かを明確にする事は設計において非常に重要です。ここを間違えると全く意味のない設計になります。私の場合、品質機能展開(以下QFD)、KJ法などを用いて要求事項の深堀をし、真の欲求を導き出します。例えば、機械のメンテナンス性改善は、要求事項を掘り下げていくと、機械のダウンタイム短縮、工場の生産効率改善が見えてきます。つまりメンテナンス性の改善だけでなく、壊れにくい機械、メンテナンスフリーが真の要求事項になります。定期メンテナンスでは、グリースの給脂を行いますが、コストが高くなっても耐久性の高い潤滑剤へ置き換えることも一つの手です。作業性の向上だけでなく、そもそも作業を必要としないという発想に辿り着けるかどうかが重要です。
Step2-2.仕様を満たす構造や機構の検討
明確化した仕様を満たすための構造や機構は、可能な限り実績のあるものの組み合わせで検討します。よく陥りがちな失敗として、構想設計をする為に0から要素を開発しなければならないと思いつめ、延々と成果が出せずにいるという状況です。技術者は既存技術を応用し、新しい付加価値を生み出すことを求められています。技術士の定義にもそうあります。つまり、なるべくシンプルで評価が容易な構造が良いでしょう。例えば複雑なリンクやカムを組み合わせたカラクリを作るよりも、購入品のアクチュエータを組み合わせたほうが信頼性が高くシンプルになることもあります。
新しい構造や機構の開発は、トレードオフの解消がボトルネックになります。これを解消するための手法として、TRIZがあります。膨大な特許情報から得られた40の発明原理から、矛盾マトリックスを用いて現状の解決策となり得るものを選びます。全容は書ききれないので割愛します。活用してみたい方は以下をご覧ください。
Step2-3.リスクアセスメント
構想が見えてきたら、それらが実用化されたとき、どのような問題が潜んでいて、対策が必要かどうかを確認します。リスクアセスメントの目的は、適切なリスク低減策を実施することです。リスクの程度に応じて必要に応じた対策をとることで、機能と安全を両立した機械の設計が可能です。リスクアセスメントの手順に関してはISO12100において定義されています。機会があれば、事例を用いてリスクアセスメントの解説をしてみたいと思います。
Step2-4.設計検証
設計検証とは、『設計が要求事項を満たしているか、客観的なエビデンスによって確認すること』です。設計検証の手段としては、CAEや試作実験などがあります。
CAEは3DCADなどのデジタルデータを用いて、コンピュータ上でシミュレーションや数値解析を行い、製品やシステムの事前検証を行う技術のことです。製品開発期間の短縮には欠かせません。しかし、CAEはコンピューターに任せておけばよいという訳ではありません。まず解析ツールを使いこなすこと、そして何よりも結果を正しく扱う豊富な知識が必要です。CAEによって得られた結果は、人が評価しなければなりません。結果に妥当性があるかどうか(条件が正しいか?傾向はある程度予想した通りか?など)は知識と経験により判断できます。CAEは補助的なシステムであって、検証は人の手によって行われるものだと認識すべきです。
Step3.詳細設計
詳細設計は、構想設計によって明らかになった要求仕様を、より具体的に形にする工程です。目的や環境に応じて2DCAD、3DCADを用います。
人によっては構想設計を上流、詳細設計を下流と呼びます。
Step3-1.詳細設計図の作成
設計図は所謂詳細検討図です。詳細まで作りこみます。
例えば、加工性を考慮し、板金・旋盤・フライス加工など加工性を考慮した形状とします。板金の場合、曲げRや曲げ限界を意識した形状へ整えます。
また、意匠性や安全面を考慮した形状の設計なども行っていきます。例えば塗装色・範囲の決定や面取り追加などです。
3DCADを用いる場合、それぞれのパーツに部品情報を持たせることが出来るため、次の工程への移行がスムーズです。例えば、材料や表面処理などを定義しておくことで、製図を行う方へ情報を確実に伝達できます。
Step3-2.図面化
図面化は非常に重要な工程です。何故なら、ここで間違えると今までの設計が全く意味のないものになるからです。その為にも以下の点について注意します。
・材質を間違えない。
・必要な寸法公差、幾何公差を入れる。
・必要に応じて、表面粗さ記号や加工方法の指示を入れる。
・独りよがりはダメ。加工業者との擦り合わせをする。
・加工者が間違えない、見やすい図面を描く。
図面作成時にミスは許されないため、チェックシートの使用をお勧めします。
また、製図技能を向上させたい場合は、機械・プラント製図技能士の資格を取りましょう。1級まで取得できれば、相当な製図知識と作図能力が備わっていると思います。3級は学生でも取得可能な難易度です。ぜひチャレンジしてください。
図面化工程は非常に特殊です。最終工程ということもあって、全工程までの流れが一切見えなくても出来てしまいます。何故なら必要な知識は製図規格とCAD操作のみだからです。実際に、一切設計に関わっていない外注業者へ製図依頼をする方を何人か見てきました。しかし、それは誤った解釈です。実際は、図面化の前にどのような工程を経ているかを知る必要があります。つまり、構想設計と詳細検討において導き出された仕様を正しく反映しなければならないのです。当然擦り合わせが必要で、それなりに知識が必要です。そのためにも上流工程を経験しましょう。逆もまた然りで、上流工程の設計者は製図・加工時に必要な情報を知るために、下流工程を経験することをお勧めします。
4.設計における重要なツール
設計プロセスにおいて各所に必要なツールを纏めてみました。各々の詳細については今後機会があれば説明していきます。
QFD→要求仕様の明確化
TRIZ→開発のボトルネックとなるトレードオフを解決する手法
FMEA→設計のリスクアセスメントツール
3DCAD→デジタルエンジニアリングの要
-PDM→CADデータやデジタル化された仕様書、部品表を一元管理するシステム
-CAE→試作LT短縮、回数削減
-CAM→生産準備の効率化、リソース不足解消
-3Dプリンタ→試作部品製造LT短縮、他部署負担軽減(リソースの確保)
チェックシート→製品の問題個所抽出、ヒューマンエラーの防止
FTA→試作・量産品の不具合分析
5.最後に
構想設計において必要なものは、設計プロセスの理解だけでなく、設計に関する多くの知識・知恵です。以前他の記事でお伝えしましたが、それらを応用する力も大変重要です。併せてご確認ください。