産業機械において、主な動力源になるのはモーターや油空圧機器です。これらの選定は、その機械を期待通りに動かす上で大変重要な設計プロセスです。ここが変わることで、全体の構造にも大きな影響を与えるばかりか、電気、ソフトに与える変更の程度も大きくなります。よって、誤った選定をしない為にも、基本的な知識は確実に身につけておきたいところです。
ということで、今回は動力源の中でもモーターに関する知識をまとめていきたいと思います。
産業機械に用いられるモーター
産業機械において用いられるモーターには、DCモータ、ACモータ、サーボモータ、ステッピングモータなどがあります。詳しくは後述しますが、要求仕様を明確にした後、これらのモーターを使い分けなければなりません。産業機械の中には、ロボットなどを用いて精密な動作を要求される機械があり、この時はサーボモータやステッピングモータを使用します。また、搬送JIGなど人の代わりに仕事をするような機械、つまり大まかな動作しか求められていない場合は、DCモータやACモータを用います。具体的な特徴を以下に纏めましたのでご確認ください。
◆AC,DCモータ
・高出力
・安価
・速度や出力制御がやや苦手
・位置決めがやや苦手
◆サーボモータ
・高出力は不可
・高価
・高精度な位置決めが可能
・高速回転が可能でトルクが安定する
・クローズド制御に用いられる。原点センサが不要。
エンコーダにて回転位置を検出し制御している。
・停止時の発熱が小さい
◆ステッピングモータ
・高出力は不可
・サーボモータに比べ安価
・高精度な位置決めが可能
・高速になるとトルクが低下し、脱調する。
・専用のドライバで制御する
・オープンループ制御に用いられる。原点センサが必要な場合もある。
パルス数で回転数を制御する。
・停止時の発熱が大きい
モーター選定フロー
産業ロボットを例に説明していきます。基本的には以下の流れです。
①要求仕様を明確にする
・使用環境
・搬送物の形状、質量
・モーター配置可能場所
・要求精度
・制御方式
・マニュピレータ、エンドエフェクタ、モーターなどの位置関係における制約条件
②機構の検討
ダイレクトドライブなのか?ベルト駆動なのか?リンクを用いるのか?等、機械の要求仕様に合うよう機構を決める。
③出力計算
モーターに要求される出力を求める。
・速度線図を作成
・慣性モーメントから加速トルクを算出
・搬送物、マニピュレータなどを含めた重量より負荷トルクを算出
・加速トルク+負荷トルク=最大トルク(ピークトルク)
・サイクルタイムより稼動頻度を算出
・実効トルクを算出
④モーターの選定&詳細設計
計算値より、条件に合うモーターを仮選定。基本的には以下を満たすこと。
・最大トルク<モーター最大トルク
・実効トルク<モーター定格トルク
モーターハウジング設計や減速機を選定する。この時、実際には動力損失を考慮しなければならない。機械の細かい仕様によるが、 出力計算の0.8~0.85を除した値からモーターの能力を決める。
⑤選定後計算
減速機、モーター軸、ハウジングなど全ての要素を含めた仕様が使用を満たしているか確認する。この時出来れば電気設計者にも協力を仰ぎ、消費電流が機械の容量に収まるか確認。
機械設計において必要なモーター知識は?
実は機械設計において、モーター構造や回転の仕組みを理解することはそこまで重要ではありません。それよりも、上記で述べた選定方法やそのうえで必要な定格トルク、最大トルクの違い、慣性モーメントの計算方法などを習得したいところです。
しかし、中々学ぶことも実践する機会も多くありません。何故なら、構想設計を必要とする新規開発時にしかモーター選定は行わず、そして構想設計に比べて詳細設計、流用設計を行う頻度の方が圧倒的に多いからです。そして専門的な知識が必要であるため、中々若手に任されることもありません。よってこの記事に書かれている知識をもとに、モーターについて理解を深め、来る日に備え力をつけておきましょう。技術力の向上とは与えられるだけでは叶いません。自らの力でチャンスを掴み、そして結果をださなければなりません。頑張りましょう。
機会があれば、もう少し別の角度からモーターに関する知識を纏めていきたいと思います。